我が家の玄関に場違いのような焼き物がある。何とかという方の作品だ。恐れ多くて夕飯の弁当を受け取るときにホイと焼き物の横のスペースに置いて間違えてコツンと当たり、その深みを帯びた美しい青磁色の曲面を底にしてコロコロ時計回りに回転し、最後には落ちてしまうのではなかろうか。などと空想してしまい、腰が痛いのを我慢して足元の床に600円の弁当を置く。なぜにこのような物がわが家にあるかというと、ある先輩が焼き物に異常に凝ってたくさんの名品など(じゃないものも含めて)を買い集め収集癖大爆発状態となり、ふとこのまま増え続けると足の踏み場もないぞということにようやく気が付いてどうやって片付けようかの思案橋。そうだあいつに餞別でやろうということで私の手もとにいらっしゃいまして玄関に鎮座ましますこととなりました。
しかし面白いもので、これを見るたびにその先輩を思い出す。自慢っぽく見せられても自分で選んだわけじゃないので気持ちの入り方がちょっと違う。脳裏に浮かぶのは作品を手に取って「うぅぅむ」と物知り顔で頷き「これが良かろうのう。どうや?」と、納得しつつもやや不安な面持ちを心で抑えて周りの反応を伺う。「さすがお殿様、お目が高い」などとお追従は言わないが雰囲気で伝わる。すると何気に「余は満足じゃ」と目元が柔らかくなってくる。さぞかし今夜の酒はおいしいだろう。
そうしてその作品は一定の期間を経て私の定年退職の記念品としてお譲り頂いたのである。全部で4点、壺・花器・茶器2。我が家ではそれらの前を通過するときに軽く会釈をする習わしである。私だけだが。
ちょっと脚色しましたが、大変ありがたく頂戴いたしました。
ありがとうございました。
お休みなさい。