小林葉子は中学校の同級生だった。
3年生で初めて同じクラスになり全く目立たない女子グループに入っていたと思う。その程度しか知らなかったし、何かクラブ活動に打ち込んでいる様子も目立った雰囲気も無かった。特に頭が良くて成績抜群とか、容姿端麗で男子生徒の憧れの的という訳でもなく、身長は低め、スタイルは普通、何かと普通などこにでもいるような女の子だったと記憶している。
僕はと言えば、少々軽率で何かと行動的な「おバカな男子」を演じるのは得意中の得意で、思春期の背伸び感はいったいどこに置いてきたのか?それさえも思いつかない程度だった。愛だの恋だのはTVの中のお話で、自分自身がそういう状況の中に身を置くことになるなど想像の範囲を大きく超えていた。
念のために言っておくけど、僕自身は不細工の括りではないと思ってて、瘦せていて水泳部だったのでスタイルも良いと思っていた。
余談だけど、水泳部なのに最初は5mも泳げなかった。なぜ入ったかというと当時大の仲良しだった「正美(男)」が陸上部はスパイクが髙いけど水泳部だったら学校指定が400円で買えると言う。決定である。
どういうキッカケで小林葉子と話をするようになったのか?はっきりとした記憶にないが、最初は熊谷さん事件だったと思う。進路相談で3者面談が実施されてて、別日に済ましてた僕が忘れ物を取りに教室に入ろうとして面談中であることに気が付き、慌てて外に出ようとしたら、担任のM先生(女性)に呼び止められて「気になるから忘れ物なら先に用事を済ませて」と言われ、又もや教室の中へ進んでいく。その歩き方がギクシャクしてて可笑しかったのか熊谷さんのお母様が「フヒ」って笑ったような気がした。ハッと感じて声の方を見てしまう。
僕はそこに美しい形を見つけてしまった。心の中で「く・ま・が・い さんのお母さんじゃ」きっと顔が真っ赤になっていたと思う。今思えば好きな顔ってあるんだなって思うけど、余りにも純粋な反応で、僕は忘れ物を手にトットと部屋を出て行った。
翌日、何かの用事で職員室に寄った時、M先生がちょっとちょっとと呼んでいる。周りを取り囲む空気がすでに霞んでいる。嫌な予感は少し当たって斜めに突き刺さる。
「よしおか。あんた熊谷さんのことが好きなんじゃろ。」
「昨日真っ赤になっとったよ」
「バラされたくなかったら勉強しっかり頑張るんじゃね」
ハイ・イイエどちらも選択できず、モゴモゴ言いながら教室に戻った(と思う)。
いったい世の中の女子の通信網ってどうなっているのか本当に知りたい。昼の休憩時間に脅されて、終業時刻には女子間ではほとんど広がってた。それも誤解されたままに。
これは良いことなんだろうか?
【続く】